大判例

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津地方裁判所 昭和26年(ワ)215号 判決

原告 大熊利三郎

被告 西山良一

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は「被告は原告に対し株式会社東海銀行松阪支店発行の原告宛通帳番号第十八号預金高二十万円の通知預金通帳(以下本件預金通帳と略称する。)を返還し、且つ金二十万円に対する昭和二十五年二月八日以降右返還済に至るまで年一割の割合による金員を支払うべし。若し右預金通帳を返還することができないときは金二十万円を支払うべし。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は昭和二十三年十二月二日被告に対し被告が訴外株式会社東海銀行松阪支店から金二十万円の金融を受けるにつき、原告の同銀行に対する通知預金債権二十万円に質権を設定することを承諾し、同日質権設定のため被告に本件預金通帳を預金額二十万円に対する月一割の割合による損害金を支払い、且つ同日以降二ケ月内に通帳を返還する約にて交付したところ、被告は昭和二十五年二月七日までの損害金を支払つたのみで今日に至るも右預金通帳を返還しないから、被告に対し右通帳の返還及び預金額二十万円に対する昭和二十五年二月八日以降右返還済に至るまで年一割の割合による金員の支払を求め、若し右預金通帳を返還することができないときは預金額二十万円に相当する金員の支払を求めるため、本訴に及んだ旨陳述し、被告の抗弁に対し、被告からその主張に係る入金の内(五)を除く爾余の金員合計二十八万五千円を受取つたことは認めるが、利息制限法を潛脱する目的を以て被告主張のような金融方法をとつたものではないと述べ、本訴は訴外銀行が質権を実行したことにより消滅した質入債権の求償を求めるものでないと附陳した。<立証省略>

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その答弁として、原告主張事実をすべて否認する。被告は訴外北川広康の依頼により訴外某が株式会社東海銀行松阪支店から金融を受けるにつき連帯保証人になることを承諾し、同銀行との間に保証契約を締結するため被告の印章を同訴外人に預けて置いたところ、同人は被告名義を用い原告主張の預金債権を担保として訴外銀行から金二十万円を借受けたものであつて、被告は同人のなした無権限の行為につき責任を負うべき理由はない。抗弁として、(一)仮りに被告が原告主張のように訴外銀行から金融を受けるにつき質権を設定するため、本件預金通帳の交付を受けたものであるとしても、這は原告が直接被告に金二十万円を利息月一割の約定で貸与するときは利息制限法に牴触するので、これを回避するため原告の訴外銀行に対する通知預金債権を担保として被告に金二十万円を借受けしめ、右預金を利用できないことに対する損害金名義の下に月一割の利息を支払わしめ、結局強行法規である利息制限法の規定を潛脱せんとする行為であるから法律上無効である。(二)よしんば右行為が無効でないとしても、本件は前述のようにその実金二十万円の消費貸借であつて、被告はこれに対する利息の内入として

(一)  昭和二十三年十二月以降同二十四年三月まで毎月金二万円宛計金八万円

(二)  同 二十四年十月一日  金五万円

(三)  同 年十二月三十一日  金五万円

(四)  同 二十五年六月十三日 金五千円

(五)  日不詳         金五万円

を、

又元金の内へ

(六)  昭和二十五年三月十九日 金十万円

を夫々支払つて居り、右(一)乃至(五)の金員は仮令利息として支払つたものであるとしても、利息制限法の趣旨に照し同法の制限範囲内に引直して計算さるべきであると陳述した。<立証省略>

三、理  由

証人北川広康の証言及び原告本人訊問の結果によれば、原告は昭和二十三年十二月二日被告が訴外株式会社東海銀行松阪支店から金二十万円の金融を受けるにつき、原告の同銀行に対する通知預金債権二十万円に質権を設定することを承諾し、同日同銀行に於て質権設定のため被告の代理人にして同人から金借に関し一切の権限を与えられていた訴外北川広康に対し本件預金通帳をその主張のような約旨で交付したこと、及び右訴外北川広康が同日右預金債権を担保として被告のため訴外銀行から金二十万円を借受けたことが認められる。

よつて被告の抗弁(一)につき按ずるに、成立に争ない甲第一号証、前顕証人北川広康、証人伊藤信夫の各証言及び原告本人訊問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合して考えあわせると原告が前述の如く自己の預金債権を担保として被告に訴外銀行から金融を受けしめた前後の事情として左の事実即ち、原告は大阪市に居住していた頃から市井に於て月一割の高利の金融が行われていることを知り、これに做つて原告自身も当時いわゆる月一の高利の金融をなし、昭和二十三年九月三重県へ来た後も同様高利の金銭を他人に貸与していたが、偶々勤務先である日通松阪支店に於て同僚である訴外北川広康に手持金が二十万円位あるが適当な借主がなかろうかと話したところ、これを聞いた同訴外人はかねがね被告から金融の斡旋を依頼されていたので早速原告に金融方を申入れ、原告もこれを承諾し取引場所を前記東海銀行松阪支店と定め、昭和二十三年十二月二日同支店に於て被告の代理人である北川広康に対し、現金二十万円を所持していたにも拘らず該金員を直接貸与せず、一旦これを同銀行に通知預金として預入れ本件預金通帳を受領した上該通帳を示し、右預金債権を担保として同支店から金融を受けるよう申入れ、同人は原告の指示に従い右の方法により同銀行から金二十万円を借受けたことが認められる。又被告が原告に対し被告主張のように(一)乃至(四)及び(六)の金員合計二十八万五千円を支払つたことは当事者間に争なく、而して成立に争ない乙第一号証によれば原告は右入金の内(六)を元金の内へ、その余を所謂利息の弁済に充当したことが明白であり、且つ原告は従来からも屡々他人に金融をしているので利息制限法の制限を超えて利息を契約することの許されないことを知つていたであろうことは容易に推測される。以上認定の諸事実を綜合して考察すると、原告は被告に対し金二十万円を利息月一割の約にて貸与するときは明かに利息制限法に牴触するので、自ら直接に被告に現金を交付することを回避し、被告をして前述の方法により訴外銀行から金融を得しめ、経済的には自らが直接貸与したと同一の結果を得、他方自らは質権設定の期間中預金が利用できないという名目の下に被告に対し損害金名義で月一割の金員の支払を約せしめ、(利息制限法第二条は金銭貸借の場合に限り適用されるものであるから、上述の損害金には適用されない。)そのいずれもが表面適法なる法律行為であるかのように装いつつ、結局損害金名義の下に月一割の高利を取得せんとするものであるという外なく、這は全く利息制限法の規定を潛脱するための行為であつて、法律上無効であるといわねばならぬ。而して、不法の原因のため給付したものはその給付したものの返還を求めることができないことは民法第七百八条の定めるところであつて、何が不法原因であるかはもとより説のわかれるところであるが、利息制限法の如き公益的強行規定に違反する行為がこれに該ることはいうまでもない。然らば原告が上述のように既に多額の金銭を取得しながら、更に不法原因に基き給付した預金証書の返還を求めるが如きは到底これを認めることはできない。

仍て、原告の本訴請求は爾余の争点につき判断するまでもなく、失当としてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 笠井寅雄)

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